2016年 01月 31日
Book : 『色彩を持たない多崎つくる〜』レビュー
いつも文庫本が出てから読んでいる
そして現時点での新作だけど
うん、またぐいぐい引き込まれる話だったな
今作もまた、
<2010年代の「今」必要とされる物語>
というものを意識された話だなと思いながら読んだ
そんなニュアンスがありつつも、
でもきっと20年後に読んでも入って来る、
そんな神話的な構造に今作もなっていた
仲良し5人組の1人が
突然他の4人から、理由も説明されずに、
ただただ絶縁を言い渡される
その不条理に対して、どう立ち向かっていったのか?
もしくは流されていったのか?
という前半
でも、よくよく後年調べていくと
傷ついていたのは自分だけじゃなかった
相手には相手の事情があった
当たり前の話だけど
絶対的な「悪役」「敵」というものは存在しない
その人にはその人の事情があり
時に人知を越えた、解析不能な事由も存在する
そんな
系譜学的な側面と、カミュ的な不条理も折り込みつつ
そして毎度のことながら
サウンドトラックと言うべき基調となる音楽も存在する
今回はリストの『巡礼の年』、またクラシックだね
レコードでも聴いてみたいな・・・
そして、相変わらずの例え話のうまさ
例え話が入って来ない小説は多々あるけど
村上春樹の例え話はすごく気持ちよくイメージ出来るものが多い
今回は例えば
空っぽな自分でも必要とされることがあるかもしれない、という話の例えに
『夜に活動する孤独な鳥が、どこかの無人の屋根裏に、昼間の安全な休息場所を求めるように。鳥たちはおそらくその空っぽの、薄暗く鎮まりかえった空間を好ましいものとしたのだ。とすれば、自分が空虚であることをむしろ喜ぶべきなのかもしれない」
再会した友人宅にあった、手作りの、いびつで不思議な格好をした、でも手触りに親密な感触があったマグカップについて
「家族の中だけで通じる温かい冗談のように」
などなどが印象に残ったかな
*****
などなどありつつ、
今回珍しく(?俺の印象だけど)、
『人の心と人の心は調和だけで結びついているのではない。それはむしろ傷と傷によって深く結びついているのだ。痛みと痛みによって、脆さと脆さによって繋がっているのだ」
と主人公つくるは魂のいちばん底の部分で理解した、とあった
あとつくるの最後のほうのことばにも
「僕はこれまでずっと、自分のことを犠牲者だと考えてきた。・・・でも本当はそうじゃなかったのかもしれない』
と出て来る
それがもたらした歴史を消すことはできない」
この、いろんなふわっとしたことを
村上春樹なりの
緻密な設定と構成と文章力で
今までより「具体的に」言語化してみた小説、という印象
その
以前の作品と比べて主題が「明確」寄りな分、
古くからのファンには物足りないかもしれない、
でも今初めて手に取る人にはいいかもしれない
つまるところ
今の俺には響く、よき物語でした
ほんのちょっとだけその「具体性」が
うまく書かれすぎている感じが残念だったけどね
あ、最近の山田詠美の小説に思ったこととも同一かも
うますぎる、と感じるのもまた一つの障壁となるんだ、て話
by jazzmaffia | 2016-01-31 14:21 | SWING-OによるReview | Comments(1)
言葉に出来ない不思議な世界、でも何か真理が語られて言うと云う感じでした。
「多崎つくる」さんも、タイトルからして私の人智の及ぶ場所では無い気がして、踏み入れていませんでした。
SWINGーOさんの書評によって興味が出てきました。
文庫本が出たというのも魅力です。
読んでみようと思います。