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Book : 『色彩を持たない多崎つくる〜』レビュー

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『色彩を持たない
多崎つくると、
彼の巡礼の年』 村上春樹 著 2013 (文庫本2015)

村上春樹の新作長編は、
いつも文庫本が出てから読んでいる

そして現時点での新作だけど
うん、またぐいぐい引き込まれる話だったな
今作もまた、
<2010年代の「今」必要とされる物語>
というものを意識された話だなと思いながら読んだ

そんなニュアンスがありつつも、
でもきっと20年後に読んでも入って来る、
そんな神話的な構造に今作もなっていた

仲良し5人組の1人が
突然他の4人から、理由も説明されずに、
ただただ絶縁を言い渡される
その不条理に対して、どう立ち向かっていったのか?
もしくは流されていったのか?
という前半

でも、よくよく後年調べていくと
傷ついていたのは自分だけじゃなかった
相手には相手の事情があった

当たり前の話だけど
絶対的な「悪役」「敵」というものは存在しない
その人にはその人の事情があり
時に人知を越えた、解析不能な事由も存在する

そんな
系譜学的な側面と、カミュ的な不条理も折り込みつつ
そして毎度のことながら
サウンドトラックと言うべき基調となる音楽も存在する
今回はリストの『巡礼の年』、またクラシックだね
まるでサントラつきの小説
だから映画化を基本的に断っているのかもしれないな 
ついiTunesだけど買ってしまった
レコードでも聴いてみたいな・・・

そして、相変わらずの例え話のうまさ
例え話が入って来ない小説は多々あるけど
村上春樹の例え話はすごく気持ちよくイメージ出来るものが多い

今回は例えば
空っぽな自分でも必要とされることがあるかもしれない、という話の例えに
『夜に活動する孤独な鳥が、どこかの無人の屋根裏に、昼間の安全な休息場所を求めるように。鳥たちはおそらくその空っぽの、薄暗く鎮まりかえった空間を好ましいものとしたのだ。とすれば、自分が空虚であることをむしろ喜ぶべきなのかもしれない」

再会した友人宅にあった、手作りの、いびつで不思議な格好をした、でも手触りに親密な感触があったマグカップについて
「家族の中だけで通じる温かい冗談のように」

などなどが印象に残ったかな

*****

などなどありつつ、
今回珍しく(?俺の印象だけど)、
著者が伝えたいことをハッキリと言葉にした箇所がいくつか見受けられた
『人の心と人の心は調和だけで結びついているのではない。それはむしろ傷と傷によって深く結びついているのだ。痛みと痛みによって、脆さと脆さによって繋がっているのだ」
と主人公つくるは魂のいちばん底の部分で理解した、とあった

あとつくるの最後のほうのことばにも
「僕はこれまでずっと、自分のことを犠牲者だと考えてきた。・・・でも本当はそうじゃなかったのかもしれない』
と出て来る

あと全体的に何度も
「記憶をどこかにうまく隠せたとしても、深いところにしっかり沈めたとしても、
それがもたらした歴史を消すことはできない」

という言葉が繰り返され、
それがこの本のテーマだということを読者に印象づけようとしていることがわかる

この、いろんなふわっとしたことを
村上春樹なりの
緻密な設定と構成と文章力で
今までより「具体的に」言語化してみた小説、という印象

その
以前の作品と比べて主題が「明確」寄りな分、
古くからのファンには物足りないかもしれない、
でも今初めて手に取る人にはいいかもしれない

つまるところ
今の俺には響く、よき物語でした
ほんのちょっとだけその「具体性」が
うまく書かれすぎている感じが残念だったけどね

あ、最近の山田詠美の小説に思ったこととも同一かも
うますぎる、と感じるのもまた一つの障壁となるんだ、て話
 

 

by jazzmaffia | 2016-01-31 14:21 | SWING-OによるReview | Comments(1)

Commented by hiromi at 2016-02-02 13:44 x
村上春樹さん、食わず嫌いだったのですが「ノルウェイの森」を4,5年前に読んで(友人が買ったけれど読んでいないというので)説明し難い感動を覚えました。
言葉に出来ない不思議な世界、でも何か真理が語られて言うと云う感じでした。
「多崎つくる」さんも、タイトルからして私の人智の及ぶ場所では無い気がして、踏み入れていませんでした。
SWINGーOさんの書評によって興味が出てきました。
文庫本が出たというのも魅力です。
読んでみようと思います。

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