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Book : 『M/D~マイルス・デューイ・デイヴィス3世研究』レビュー

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『M/D マイルス・デューイ・デイヴィス3世研究』上・下
菊地成孔+大谷能生 著

この本の原作が出てから9年
文庫本が出てから6年
そして主役のマイルスがなくなってから26年の
しかも本日9.28がその命日

、、、という絶妙だかなんだかわからないタイミングでレビューを書きます
単純にたまたま今月頭くらいから読み始めた、というだけなんですがね

正直、俺自身はマイルスファンではなくて
正確には菊地さんの著書のファン
もちろんマイルスは好きな作品は多数あるし
勉強がてら肝とされるアルバムは大概持っているんですが
すでに自伝も読んでいるんですが
「エレクトリックマイルス」期と言われる1970-75年あたりの作品は
正直好きになれなかったりもして、
でも菊地さんはそこを熱く語っているのは以前から知っていたので
(レコードコレクターズ「On The Corner」特集などで)
結果、後回しになってしまったというとこでしょうか

で、結果
やはり素晴らしい本でした
想像通りのヘビーさで、
比較文化論的にあらゆる側面から時代考証をし
人文学的心理学的見地をも経由してマイルスの人間性を炙り出そうとする様は
人工衛星から眺めてたはずの地球が、一瞬で目の前に迫ってくるような
高所恐怖症の俺がいやいや乗ったジェットコースターが意外や心地よかったような
何せめくるめく素晴らしい視点による分析に頭がクラクラし
いかんせん対象であるマイルスの躁鬱具合、体調不良具合に意識を持って行かれて
読んでいる俺自身が気重になってきてしまう側面もあり、
特に「エレクトリックマイルス」が語られる下巻は
メモっておきたいことが多数で、本来ならばゆっくり読みたいところなんですが
気重さに耐えきれず急いで読みきってしまう羽目になる
。。。といった感じでした

そもそもが東京大学の講義本です
なので受講生という心持ち半分で、
感想文的に記してみると

もともと"Nefertiti"1967までは好きでしたが
今回受講したことで「意外といいかも」と思えてきたのは
"Get Up With It" 1974
ですね

この、ただのボツ曲集でもある、
引退時期にレコード会社主導で出された系の作品は
すでにテオマセロの手が加わってるとはいえ、
俺にはポップに響くものがいくつかあって気に入りました
特にB-1"Maiysha"はいいですね
この時期にしては唯一と言っていいほどコード感のある楽曲
モーダルでもあり、
10年遅れでチルドレン側の
Herbie Hancock "Maiden Voyage"
Freddie Hubbard "Little Sun Flower"
あたりを意識して作られたような、
いや聞き様によってはPharoah Sanders~Lonnie Liston Smithにも聞こえますね
実際、そこを意識したのかもしれませんね、
この曲の、マイルスによるオルガン?のロングトーンがキテレツな以外は
Lonnie Liston Smithの曲と言われても納得しちゃいそうな心地よさがあります
あ、そもそもこの時期のマイルスに「心地よさ」を求めること自体が間違ってるんでしょうけど

他、70年頃の、フィルモアなどのロックフェスに出た時のライブ音源なども
その頃の背景を説明されながら聞くと
実に魅力的に聞こえてくる、熱くなるものがありましたね
でも、でも、
俺にはまだ"Bitches Brew" 1969がポップには聴こえてきませんでした
これがマイルス唯一の、ポップチャートでトップ40に入ったアルバムなのは知ってますが
未だよくわかりません
むしろロックフェスにいろいろ出て、
「なんだか知らないがこのオッさんすごい!」
と白人に思われて、その白人層が結果買ってくれたって順番でしょ?と
実際その後のサントラやライブ盤になるとまたチャート100位圏外に戻ってしまいますしね
現状の俺の耳では、て話です
いずれ聴こえてくる日は来るかもしれませんが

マイルス引退時期の1976年に始動した
マイルス抜きで始められたマイルスバンドV.S.O.Pの
「ジャズ史を振り返る」的企画を
「ジャズを止めた」企画と切り捨てる視点は「なるほど」でした
ビジネス的にはそうした懐古的な企画は成功しがちなんですが
一方で更なる境地を目指そうとする側からしたら迷惑極まりない
そこを懐古企画と新境地をうま〜くかる〜く乗りこなすHerbie Hancock
彼の薄っぺらい感じ、いやでも深みもあるっちゃある
でもカリスマではない、、、、評価は俺自身も難しいところですが
「振り返る企画」の危険性は少なくともわかる話でした

他、ケイ赤城さんとの対談は面白かったですね
唯一の日本人でマイルスバンドメンバーになったことがある人です
マイルスがメロディを重力になぞらえて話してくれたくだりとか
ピッチ感の独特な感じ、そもそも平均律で吹いてないのではないか?
というくだりも面白かったです
その70年代以降の、
モードジャズからどんどん発展して、
結果、無調音楽になっていく中で
マイルスは何を捉えて音程を出していたのか?という考察は
漠然としか解釈は出来ませんでしたが、興味深いくだりでした

他1980年代復活以降は
どれだけ日本がマイルスを支えたか、という話もなるほどでしたね
その中にはタモリもいるでしょうし
チケットが5万円したという目黒ブルースアレイこけら落としもありました
(ちなみに年末にライブやることが決まったので、また違う気持ちで出れますね)
デザイナー佐藤孝信さんも80年代〜死ぬまでの衣装を支えた人だったと
(ちなみに先日Hanah Springと話してたら、孝信さんを知っている&話したことがあるとのことで、、、びっくり)

そろそろ
まとめに入りますが
マイルス分析の基調としてあった
「常に時代から数年遅れで新しいことに挑戦していた」
というのは非常に納得できる解釈でした
その、大胆に新しいものをどんどん取り入れていくイメージだったのが
その実は違っていた、という話は面白いポイントでしたね

本の中で一番出てくる
「ミスティフィカシオン」自己韜晦・目くらまし
「アンビバレンス」二面性
さらにこれらの分析をベースに進むことで
「天才」だ「奇才」だなどと抽象的で安易な着地点で思考停止せずに
人間・マイルス
をあぶり出してくれる、
さすがさすがの菊地・大谷ペア著書でした

*****

そして最後に、
ネットをいろいろ見ていて発見した
1991年に、マイルスがなくなる2ヶ月前に
Quincy Jones指揮で行われた
モントルージャズフェスのGil Evans トリビュートライブ
これ、ちょっといろんな意味できゅんと来ましたね

今まで過去を振り返らなかったマイルスが
偶然にも亡くなる直前にそうした懐古企画に乗っていたなんて、、、
マイルスチルドレン筆頭のWallace Roneyの笑顔がまたきゅんとくるんです

Miles Davis with Quincy Jones & the Gil Evans Orchestra 1991

https://youtu.be/4_eUc_equV0



でも菊地・大谷氏の解釈は違うようです
なぜならその直後に結果遺作となった"Doo Bop"のレコーディングをしてますからね
きっと大金を積まれて「出稼ぎ」に行っただけなんじゃないか?と 笑

by jazzmaffia | 2017-09-28 18:28 | SWING-OによるReview | Comments(0)

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